理事長の話
【高校卒業式】理事長告辞
2024-03-01
『第70回 福山暁の星女子高等学校卒業式 理事長告辞』
親愛なる紡愛の会の皆さん、保護者の皆様、教職員の皆様、ここに集うすべての人々に、心からの感謝と祝福を申し上げます。本日、私たちはただ卒業という節目を迎えるのではなく、新たな旅立ちの始まりを祝福しています。
卒業する皆さんの前に立っている私も、ちょうど今から半世紀前、50年前の1974年、皆さんの側に立ってカトリックの男子校を卒業しました。50年前というと日本がどういう時代だったか皆さんには想像がつかないと思います。今では普通に街のいたる所にあるコンビニの1号店が出来たの年が1974年でした。以来50年、時代は当時では想像も出来ないほど大きく変わりました。同じように、これらかの50年は今の時点で将来予測されることのほとんどが忘れ去られ、誰もが考えもしなかったことが注目されるようになるに違いありません。
50年前に高校を卒業した私から、門出に立つ皆さんへひとつの言葉を贈りたいと思います。 それは、英語の動詞unlearn(アンラーン)という言葉です。学ぶという意味の動詞learnに、unという接頭語が付いています。このunには単純な否定ではなく反復・繰り返しの意味がこめられており、哲学者の鶴見俊輔さんはこれを「まなびほぐす」と訳しておられます。鶴見さんがこの単語を初めて耳にしたときの興味深いエピソードを彼の著作から紹介しておきましょう。
――日本の学校に馴染めず、16歳でアメリカヘ留学させられた1939年の出来事です。17歳の夏休み、ニューヨークの日本図書館で働いているときに、ヘレン・ケラーが手話の通訳とともにその図書館を訪ねてきた。館長が、宮城道雄の『春の海』のレコードをかけると、ヘレン・ケラーは、蓄音機に手をふれて、そのふるえから何かを感じて、音楽についての感想を話し、偶然、私に質問して、私がハーバード大学の学生だとこたえると、自分はそのとなりのラドクリフ女子大に行った、そこでたくさんのことを「まなんだ」が、それからあとたくさん「まなびほぐさ」なければならなかった、と言った。たくさんのことをまなび(learn)、たくさんのことをまなびほぐす(unlearn)。それは型どおりのスウェーターをまず編み、次に、もう一度もとの毛糸にもどしてから、自分の体型の必要にあわせて編みなおすという状景をよびさました。――
セーターを編みかえると言ってもピンとこない方に別の言い方をすると、高校で学んだたくさんのことが詰まった引き出しから中身を全部出して空にして、それから自分の使いやすい並べ方で整理し直すと言ってもいいでしょう。
I’ve learned many things but later I had to unlearn. というヘレン・ケラーさんの発言にあったunlearnに関して、鶴見さんは「忘れる」という意味ではないと思う。まなびほぐさなければ、人生を生きる知恵にならないということだね」とか「学校でまなぶ知識はむろん必要だ。しかし覚えただけでは役に立たない。それをまなびほぐしたものが血となり肉となる」といった分かりやすい説明を加えておられます。
50年前の卒業生として、私は人生を通じて多くの教訓を学びましたが、その中で最も重要だったのは、時には古い考えや習慣を手放し、新しい考え方や取り組み方に心を開く勇気です。世界は絶えず変化しており、私たちもまた、その変化に適応するためには、柔軟な思考が必要です。まなびほぐすことによって、私たちは大きく伸びていくのだと思います。
私は大学卒業後、研究者として長く仕事をしましたが、その間社会の変遷に応じて必要となる技術の分野やレベルが変わり、技術の対象がどんどん変わっていきました。これらの変化に対応するためには、過去に学んだことを再考し、常に軌道修正をし、自分だけの思考過程をもう一度作り上げていく必要がありました。自分が今までに学んで正しいと思ってきたことに、どこか間違っているところがないか再検討する、あるいは疑って考える姿勢が必要でした。つまり、今までの学問体系の理解をunlearnして、そこでの私の思考パターンのクセを直すことが研究の出発点でした。今振り返るとそのプロセスは私にとって価値があり楽しいものでした。この習慣は今でも大切にしていて、「何か違うアプローチはないだろうか」とか「常識にとらわれていないだろうか」と自問自答する日々を送っています。
皆さんは福山暁の星女子高等学校を巣立ち、新しい世界に飛び込みます。そこでは今まで学んできた多くのことが活かせないという経験をすることが多いと思います。皆さんもlearnしてきたことに固執せず、自分の思考のクセやルーチーンを常に見つめ直して欲しいと思います。
最後に、皆さんのこれからの人生に幸福と成功が満ち溢れることを心から願っています。今日の卒業は、皆さんの人生における新たな始まりです。この新しい章が、皆さんにとって最も輝かしいものとなりますように。
親愛なる紡愛の会の皆さん、保護者の皆様、教職員の皆様、ここに集うすべての人々に、心からの感謝と祝福を申し上げます。本日、私たちはただ卒業という節目を迎えるのではなく、新たな旅立ちの始まりを祝福しています。
卒業する皆さんの前に立っている私も、ちょうど今から半世紀前、50年前の1974年、皆さんの側に立ってカトリックの男子校を卒業しました。50年前というと日本がどういう時代だったか皆さんには想像がつかないと思います。今では普通に街のいたる所にあるコンビニの1号店が出来たの年が1974年でした。以来50年、時代は当時では想像も出来ないほど大きく変わりました。同じように、これらかの50年は今の時点で将来予測されることのほとんどが忘れ去られ、誰もが考えもしなかったことが注目されるようになるに違いありません。
50年前に高校を卒業した私から、門出に立つ皆さんへひとつの言葉を贈りたいと思います。 それは、英語の動詞unlearn(アンラーン)という言葉です。学ぶという意味の動詞learnに、unという接頭語が付いています。このunには単純な否定ではなく反復・繰り返しの意味がこめられており、哲学者の鶴見俊輔さんはこれを「まなびほぐす」と訳しておられます。鶴見さんがこの単語を初めて耳にしたときの興味深いエピソードを彼の著作から紹介しておきましょう。
――日本の学校に馴染めず、16歳でアメリカヘ留学させられた1939年の出来事です。17歳の夏休み、ニューヨークの日本図書館で働いているときに、ヘレン・ケラーが手話の通訳とともにその図書館を訪ねてきた。館長が、宮城道雄の『春の海』のレコードをかけると、ヘレン・ケラーは、蓄音機に手をふれて、そのふるえから何かを感じて、音楽についての感想を話し、偶然、私に質問して、私がハーバード大学の学生だとこたえると、自分はそのとなりのラドクリフ女子大に行った、そこでたくさんのことを「まなんだ」が、それからあとたくさん「まなびほぐさ」なければならなかった、と言った。たくさんのことをまなび(learn)、たくさんのことをまなびほぐす(unlearn)。それは型どおりのスウェーターをまず編み、次に、もう一度もとの毛糸にもどしてから、自分の体型の必要にあわせて編みなおすという状景をよびさました。――
セーターを編みかえると言ってもピンとこない方に別の言い方をすると、高校で学んだたくさんのことが詰まった引き出しから中身を全部出して空にして、それから自分の使いやすい並べ方で整理し直すと言ってもいいでしょう。
I’ve learned many things but later I had to unlearn. というヘレン・ケラーさんの発言にあったunlearnに関して、鶴見さんは「忘れる」という意味ではないと思う。まなびほぐさなければ、人生を生きる知恵にならないということだね」とか「学校でまなぶ知識はむろん必要だ。しかし覚えただけでは役に立たない。それをまなびほぐしたものが血となり肉となる」といった分かりやすい説明を加えておられます。
50年前の卒業生として、私は人生を通じて多くの教訓を学びましたが、その中で最も重要だったのは、時には古い考えや習慣を手放し、新しい考え方や取り組み方に心を開く勇気です。世界は絶えず変化しており、私たちもまた、その変化に適応するためには、柔軟な思考が必要です。まなびほぐすことによって、私たちは大きく伸びていくのだと思います。
私は大学卒業後、研究者として長く仕事をしましたが、その間社会の変遷に応じて必要となる技術の分野やレベルが変わり、技術の対象がどんどん変わっていきました。これらの変化に対応するためには、過去に学んだことを再考し、常に軌道修正をし、自分だけの思考過程をもう一度作り上げていく必要がありました。自分が今までに学んで正しいと思ってきたことに、どこか間違っているところがないか再検討する、あるいは疑って考える姿勢が必要でした。つまり、今までの学問体系の理解をunlearnして、そこでの私の思考パターンのクセを直すことが研究の出発点でした。今振り返るとそのプロセスは私にとって価値があり楽しいものでした。この習慣は今でも大切にしていて、「何か違うアプローチはないだろうか」とか「常識にとらわれていないだろうか」と自問自答する日々を送っています。
皆さんは福山暁の星女子高等学校を巣立ち、新しい世界に飛び込みます。そこでは今まで学んできた多くのことが活かせないという経験をすることが多いと思います。皆さんもlearnしてきたことに固執せず、自分の思考のクセやルーチーンを常に見つめ直して欲しいと思います。
最後に、皆さんのこれからの人生に幸福と成功が満ち溢れることを心から願っています。今日の卒業は、皆さんの人生における新たな始まりです。この新しい章が、皆さんにとって最も輝かしいものとなりますように。
2024年(令和6年)3月1日
学校法人 福山暁の星学院 理事長
田中 靖