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落葉広葉樹は何のために紅葉するのか

 福山暁の星女子中学・高等学校ECO.クラブでは、2008年度から「落葉広葉樹は何のために紅葉するのか」をテーマに実験を重ね、現在も続行中です。
 秋になると、桜などの落葉広葉樹は、わざわざエネルギーを用いてアントシアンなどを合成した後に落葉するが、その意義については、いまだに定説がありません。
私たちは、紅葉という植物の営みの意義を解明することに深い魅力を感じながら、様々な生物との関わりを視野に入れ、実験を行っています。
 バイオテクノロジーや環境問題、創薬の分野に関心のある人に是非参加して欲しいと思います。
 以下に今までの実験の概要を紹介します。
 
 私たちは、2008年度から「落葉広葉樹は何のために紅葉するのか」というテーマについて、紅葉は緑葉に比べ、土壌動物や分解者(細菌類など)の良い養分になるため利用されやすいという仮説、
「紅葉の堆肥化促進仮説」を考え、実験を行なってきた。
 紅葉が土壌動物や分解者に好まれて利用されやすければ、幹の周辺に落ちた落葉が速く分解される。その結果、植物にとっては、落葉が風でどこかにとばされる前に、落葉から生産される無機塩類を自分自身の肥料として利用できる可能性が高まるだろう。
 この仮説を検証するため、土壌動物(ダンゴムシ)が紅葉・黄葉・緑葉のいずれをよく摂食するかを確かめる実験と、土壌中の細菌類・菌類が、紅葉・黄葉・緑葉から得たそれぞれの抽出液のうち、どの抽出液中でよく増殖するかを確かめる実験を行った。
 この実験から、落葉広葉樹の紅葉は、緑葉に比べ、土壌動物による摂食を促進する作用をもつ可能性があることが分かった(図1 08年度広島県科学賞準特選)。
 

図1  2種類の桜の葉を5枚ずついれたバットに、それぞれダンゴムシ(60匹)を入れて葉の被 食量を調べた結果(2008年秋)。紅葉の被食が最も多いことが分かった。
図1-a 緑葉(上)vs.紅葉(下)
11月10日
11月21日
11月24日
図1-b 黄葉(上)vs.紅葉(下)
11月24日
12月1日
12月7日
図1-c 黄葉(上)vs.紅葉(下)
11月24日
12月1日
12月7日
図2 桜の葉のダンゴムシによる被食量の違い(図1をグラフ化したもの)
落ち葉は、土壌動物に食べられた後、細菌類・菌類の分解によって堆肥になる。 2009年私たちは、紅葉は菌類の増殖を促進するのではないかと考え、葉の抽出液と細菌類の関係について調べた。単一のカビ(白カビ 図3)を培養し、桜の紅葉・黄葉・緑葉の抽出液の影響を調べた。菌類の代表に白カビを選んだのは、落ち葉を観察したとき最も頻繁に目につくカビであり、分解者として重要な役割を果たしているだろうと考えたからである。実験の結果、葉の抽出液(各溶質濃度0.03%)が白カビの増殖を促進する効果は、紅葉、黄葉、緑葉の順に大きいことが分かった(図4、図5 09年度広島県科学賞入選)。
この実験では、桜の葉の抽出液が白カビの増殖に与える影響を調べるために、白カビの菌体懸濁液を、各寒天培地の中央に50μℓずつ滴下し、シャーレを暗室で40時間静置した後、滴下した場所以外のところに新たにできたコロニーの数を数えるという方法を用いた。
図3 寒天培地上の白カビ
図5 桜の抽出液を含む培地上での白カビの繁殖(各条件13枚のプレートの中の一例)
 2010年度は、青カビを用いて、桜の紅葉・黄葉・緑葉の抽出液の影響を調べることを目的として実験を行なった。その結果、緑葉抽出液はアオカビの増殖を阻害すること、アオカビの増殖をもっとも促進すのは紅葉抽出液で、黄葉抽出液は、紅葉についで促進するということが分かった。
 
アオカビと白カビ(コウジカビの可能性)、および2008年のダンゴムシによる摂食実験の結果は、『紅葉の堆肥化促進仮説』と名づけた私たちの仮説を支持している。
『紅葉の堆肥化促進仮説』とは、つぎのような内容である。「自然の森で腐葉土が1cm深くなるのに、100年単位の年月を必要とすると言われる。落ち葉に含まれる有機物は、腐葉土形成の主役である。紅葉の鮮やかな11月、落葉した木の下にひろがった色とりどりの落ち葉が、強い風で、一夜にして吹き飛んでしまうこともしばしばある。紅葉が、落葉前に蓄えたアントシアンなどによってダンゴムシたちの摂食を促進し、速やかに細かく砕かれて湿った排泄物として土に混ざれば、多少の風では吹き飛ばなくなる。そして、ダンゴムシたちの排出物に残っている紅葉の成分が、細菌類・菌類による分解をも促進する。その結果、落ち葉を落とした植物自身は、無機塩類を豊富に含む豊かな土壌を手に入れることができる。花粉や種子の散布に関して、昆虫類や鳥類、哺乳類との共進化を成し遂げた被子植物は、堆肥形成に関しても、紅葉形成によって土壌動物や菌類・細菌類との協力関係を築いたのではないだろうか」
紅葉の抽出成分の生理活性が明らかになれば、効率の良い堆肥化や抗菌物質としての応用につながるかもしれない。たとえば、紅葉の抽出成分から堆肥化のための有効成分を精製し、生ごみを効率よく堆肥化する、コンポスト用の添加剤を製品化することなどが考えられる。

 植物の葉がアントシアンを蓄積する意味については、いまだに定説がないが、T.S.Feild (2001)らは、次のような新しい説を発表している。「秋になって気温が下がってくると、落葉植物の葉ではだんだんとその代謝活動が低下する。葉が落ちる前にそこに含まれる養分のうち再利用できるものはできる限り回収してしまう一方で、老廃物が溜まる。葉の光合成の場である葉緑体も分解が始まり、その核となるクロロフィルが殻の中から出てくる。葉緑体の構造からその中心的存在であるクロロフィルだけが外に出て光を受けるとエネルギーを吸収した励起状態になり、周辺に存在する酸素に直接働きかけて非常に毒性の強い活性酸素をつくり出してしまう。活性酸素の作用で葉の細胞の構造が壊される(光酸化障害)と葉に残る栄養分の回収作業の能率が大幅に低下してしまう。光合成を行う上で最も効率の良い青色の光をクロロフィルから遮ってしまえば、活性酸素生成の危険性は低くなる。アントシアニンは青色の光をよく吸収してクロロフィルの励起を抑制する結果、赤く紅葉した葉では強い光を当てたときに光酸化障害を受ける程度が黄色の葉よりも低くなる」
 紅葉形成が、光酸化障害の防止や堆肥化促進など複数の意義をもつことも十分考えられる。今後、他の細菌類、菌類についても実験を重ねていきたい。
 
参考
・「落葉広葉樹は、何のために紅葉するのか」第52回広島県科学賞入選(福山暁の星女子高校)
・「紅葉の抽出液による白カビの増殖促進効果と納豆菌の増殖抑制効果」第53回広島県科学賞入選(福山暁の星女子高校)
・ピーター・トーマス著、熊崎実他訳「樹木学」築地書館(2001)
・吉玉 国二郎 日本植物生理学会「みんなの広場」http://www.jspp.org/17hiroba
・山本良一著、「植物生理学入門」オーム社(2007)
・T.S.Feild 他,"Why leaves turn red in autumn", Plant Physiology, 127, pp.566-574 (2001)
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