理事長の話
第66回 福山暁の星女子高等学校卒業式 理事長告辞
2020-02-29
麗和の会の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
多感な年月を過ごした暁の星から、いよいよ旅立ちをする時が来ました。
毎日当たり前のように一緒に過ごしてきた友達や先生方と、また当然そこにあると思ってきた学校や教室で過ごすのもあとわずか、いよいよ別れの時です。
毎日当たり前のように一緒に過ごしてきた友達や先生方と、また当然そこにあると思ってきた学校や教室で過ごすのもあとわずか、いよいよ別れの時です。
皆さんはカトリック校で、かつ女子校である福山暁の星女子高等学校を卒業されます。カトリック校で女子校というのは一般にはとても珍しい存在です。これから皆さんが経験する新しい世界でも「暁の星らしさ」を忘れずに生きていって欲しいと思います。
ここで暁の星らしさとは一体何なのか、もう一度考えてみましょう。それは「他者のために生きる」ことを学んだことではないでしょうか。ではこの「他者」とは誰で、「生きる」というのはどのようにすることをいうのでしょうか。
皆さんが学んできた聖書にはこの問いに答えるのにちょうどいい「たとえばなし」があります。「善いサマリア人のたとえ」です。ユダヤ教の律法学者が、どうすれば永遠の命を得ることができるかとイエスに尋ねた場面で、イエスはたとえを引きながらこう答えられています。
ある人がエルサレムからエリコに下っていく途中、強盗に襲われた。彼らはその人の衣服を剥ぎ取り、打ちのめし、半殺しにして去っていった。たまたま、一人の祭司がその道を下ってきたが、その人を見ると、道の向こう側を通っていった。また同じように、一人のレビ人がそこを通りかかったが、その人を見ると、レビ人も道の向こう側を通っていった。ところが、旅をしていた、一人のサマリア人がそばに来て、その人を見ると憐れに思い、近寄って、傷口に油とぶどう酒を注ぎ、包帯をした。それから、自分のロバにのせて宿に連れて行き、介抱した。翌日、サマリア人はデナリオン銀貨2枚を取り出し、宿の主人に渡して言った。「この人を介抱してください。費用がかさんだら、帰った時に支払います。」さて、あなたは、この3人のうち、強盗に襲われた人に対して、隣人となったのは誰だと思うか。
もちろん答えは介抱したサマリア人ということになるのですが、見捨てた祭司やレビ人を責め、助けたサマリア人を称えて、困った人がいたら助けなさいという道徳的な教訓を伝えるためにイエスはこのたとえ話をしたのではありません。
この3人には実は共通点が多くあります。まず、この強盗に襲われた人を見て恐らく「助けたい」という気持ちを持ったであろうこと。そして、助けずに通り過ぎてもいい正当な理由を3人とも持っていたということです。当時のユダヤ教の律法では、血は汚れたものであったので、祭司やレビ人にとって血だらけになった人に触れることは律法を犯すことになっていたし、またサマリア人にとっては、当時サマリア人とユダヤ人とは犬猿の中でしたから、見捨てて去って行っても誰も咎めることはしませんでした。このように3人とも共通した状況にありながら、一体何がその後の行動の違いになったのか。
私はそれは、サマリア人が傷ついた人を見て「憐れに思った」からではないかと思います。この「憐れに思う」というのは、日本語でいう普通の意味と違って、原文のギリシャ語では、はらわたがねじれるほど強く思うという強い意味で、この場面では傷ついた人の気持ちをとても強く感じたということになります。その強い感情をこのサマリア人だけが感じたということです。恐らく、祭司やレビ人は自分の行動は律法に沿った正しい行動であったと自分を納得させながらも、自然と沸き起こった感情に従わず、困った人を助けることをしなかった自分に後ろめたさを感じていたのではないでしょうか。反対にサマリア人は自分が感じた通りの正義を行い、満たされた気持ちを感じたことでしょう。
皆さんは暁の星での生活の中で、ボランティア活動を経験されましたが、ボランティア活動をした後の気持ちはどうでしたか。相手と気持ちが通じ合い、自分の行動を喜んでもらえて、とても幸せな気持ちになったのではないでしょうか。
「他者のために生きる」というのは、困っている人を助けることに道徳的な意義があるのはもちろん、皆さんが幸せになるためにとても大事なことです。自分のために生きるよりも他者のために生きることがどれだけ人を幸せにすることか、皆さんを育ててくださった皆さんの保護者の方をみればわかると思います。皆さんを育てるためにどれだけ苦労してこられたか、でも皆さんが立派に高校を卒業される姿を見て、今とても幸せに感じておられることと思います。自分を差し置いて皆さんのために尽くしてこられた皆さんの保護者の方に、感謝してもし尽くせない感情が自然と湧き起こることでしょう。
さて、これから皆さんは新しい世界へと旅立ちます。
「他者のために生きる」を実践するために、とても大事なことがあります。
まず、勉強してください。自分の知性を磨いてください。何が正義かを見分けるために。
そして、経験してください。世の中にどのような人がいて、その人々がどのように感じ、何を求めているかを知るために。
そして、行動してください。正義を実行するために。そして、自分や周りの人を幸せにするために。
「他者のために生きる」を実践するために、とても大事なことがあります。
まず、勉強してください。自分の知性を磨いてください。何が正義かを見分けるために。
そして、経験してください。世の中にどのような人がいて、その人々がどのように感じ、何を求めているかを知るために。
そして、行動してください。正義を実行するために。そして、自分や周りの人を幸せにするために。
以上で福山暁の星女子高等学校を卒業される麗和の会の皆さんへのお祝いの言葉と致します。
2020年(令和2年)2月29日
学校法人 福山暁の星学院 理事長 田中 靖