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校長先生のお話

高校入学式 式辞
2019-04-06
 うららかな春の日差しを感じる今日この頃となりました。本年度は,この日を待ちわびていたかのように,坂道の二十四本の桜の花が咲き誇り,皆さんを祝福しています。
 本日は,ご多忙中にも関わりませず,この良き日に嶽山保護者会長,細川暁の星幼稚園保育園長,児玉暁の星小学校長にご臨席を賜り,このように入学式が挙行できますことに感謝申し上げます。ありがとうございます。
 保護者の皆様,お嬢様のご入学おめでとうございます。
 本校は,今日まで70年の歴史を刻み,建学の精神「Women for Others(他者のために生きる女性の育成)」・五つの校訓「マリアと共に」「神に信頼」「己に誠実」「互いに睦み」「進んで奉仕」のもと,教育を推進してまいりました。
 これまで巣立っていった卒業生は,今や9899名となりました。多くの卒業生が,経済界・産業界等多岐に渡る分野の中枢として国内外で活躍しています。このことは,本校の大きな宝であり,在校生にも,大きな勇気と希望を与えてくれています。
 私たちは,お嬢様を本校にお預け頂いた保護者の皆様の熱い思いをしっかり受け止め,命を大切にして,愛情と敬意を持って指導してまいります。一人ひとりのお嬢様方の夢の実現のために,誠心誠意教育に取り組んでまいりますので,ご支援ご協力のほど,よろしくお願い致します。
 さて,86名の新入生の皆さん,ご入学おめでとうございます。 
 今日は,義務教育を終えた皆さんの新たなるステージの始まりの日であり,10名の仲間との新たなる出会いの日でもあります。皆さんの夢の実現を図るためのスタートラインに立った所です。高校生活への期待と希望に胸膨らませながら,本日を迎えたことと思います。私たち教職員一同も,この日を大変楽しみにしていました。
 皆さんは,平成最後の入学生であり,令和最初の1年生として本校での学校生活を送ることとなります。令和は,万葉集の32首の序文にある「初春の令月にして 気淑く風和ぎ 梅は鏡前の粉を披き 蘭は珮後の香を薫らす」との文言から引用されたものであり,安倍首相は,「厳しい寒さの後に春の訪れを告げ,見事に咲き誇る梅の花のように,一人ひとりが明日の希望とともに,それぞれの花を大きく咲かせることができるようにとの願いを込めた」との談話を発表されました。
 私たちも,これに肖り,本校の生徒として,暁の星ファミリーの一員として,安心して安全に楽しく学校生活を送ることができるように全力で丁寧に関わりながら,成長を支援してまいります。これからの三年間は,学習や部活動・奉仕活動等に全力で取組み,しっかり自分自身を磨いて下さい。
 本校は,建学の精神,5つの校訓とともに,現在の動向を踏まえた三つのビジョン「Ⅰ 命を大切にし,生徒一人ひとりを愛情と敬意を持って育てる学校 Ⅱ 学ぶ喜びを育み,主体的・自律的な学習態度を育成する学校 Ⅲ 広い視野を持ち,他者と協働しながら平和を築くサーバントリーダーを育成する学校」に基づく教育を推進しています。昨年,創立70周年という節目の年を迎え,10月20日に記念式典を挙行いたしました。戦後の混乱期である1947年12月に4人のシスターがフランスから来日し,ことばや文化の違い等筆舌に尽くし難い幾多の困難を乗り越え,この地に一粒の種を落としました。この校舎の基礎石には,「暁の星の門を一度くぐった人は,みないつか聖母のみもとに集って永遠の喜びを味わうことができますように!」という創立者の祈りが刻みこまれています。本校は,一人一人が「大切にされている」「愛されている」と実感できる一つの大きな家族であるという意味合いが含まれています。
 さて,話は変わりますが,現在,人工知能やIoTの普及による第四次産業革命の進展は,生産販売,消費といった経済活動に加え,健康・医療・公共サービス等の幅広い分野や人々の働き方,ライフスタイルにも大きな影響を与えると言われて,すでに人工知能は,ディープラーニング技術とビッグデータの活用により,人間の能力を凌駕し始めています。いまやアメリカでは,警察官のパトロールも人工知能が指示を出し,大きな成果を挙げているとのことです。我が国においても,超スマート社会(society5.0)の実現へ向けて様々な施策が打ち出され,人工知能等が私たちの生活の中に密接に関係する時代が日進月歩で到来しようとしています。
 昨年示された,国の第3期教育振興基本計画でも,こうした時代を逞しく生き抜くために,「新たな知識・技能を習得するだけでなく,学んだ知識・技能を実践・応用する力,さらには自ら問題の発見・解決に取り組む力を育成することが特に重要である。また,主体的・自律的に考え,多様な他者と協働しながら,より豊かな社会を形成することのできる人を育てていくことが必要である」と述べられています。
 また,皆さんが大学受験を迎える時には,新たな大学入試共通テスト開始二年目となります。これまでの「知識・技能」を図る問題だけでなく,「思考力・判断力・表現力」を評価する記述式問題や連動型複数選択問題が多く出題されることとなり,テストの難易度が上がると言われています。実際に,一昨日公表された2回目のプレテストの結果は,国語記述式の80~120字を書く問題の正答率は,15.1%,数学に至っては,3.4%と依然厳しい水準であったことが判明しています。これに対して入試センターの作問担当者は「思考力を測る狙いと,入試として使いやすい試験を両立させる一定のめどはついた。」と語っておられます。したがって,自ら考え表現する学習を積み重ねていきながら,思考力を育むことが極めて重要になります。
 さらに,英語においては,「聞く」「話す」「読む」「書く」の四技能を測るテストになるとともに,各国立大学は,民間の英語資格試験の活用に係り「①成績が一定を満たしていることを出願資格とする。②試験の得点に加点する。③活用しない」などを含め,それぞれ独自の方針を公表されました。志望大学の方針をよく確認して対策を練ることも大切になります。
 この一年間は,様々なことに多様な考えを持つ友と協働しながら果敢に挑戦し,主体的に学習できる力・物事に向き合う力を身につけながら自分の適性を見極める学年としてください。キーワードは,主体性・多様性・協働性です。
 そのために,次の三つの力を身に着けてください。
 Empathy(共感する力) Grit(やり抜く力) Growth(学び続ける力) 
 頭文字を取って,EGGの力です。
 このなかでも,とりわけ,Grit(やり抜く力)を高めてください。そのためには,「興味あることを見つけ,それに打ち込むこと」「失敗を恐れずチャレンジし続ける習慣を身に着けること」「スキルより少し高い目標を定め,できそうなところからやり始めながら,小さな成功体験を積み重ねていく」こと等が大切であると提唱されています。
 この好事例が,先月引退したイチロー選手ではないでしょうか。メジャーリーグの選手として体格に恵まれないイチロー選手は,大リーグ入団一年目のインタビューで「人は必ず障害に出会う。誰もが負けそうになる。そこで頑張れる人間になりたい。前向きな姿勢で夢を持って歩いていきたい」「できると思っても出来ないことがある。でも,できないと思っていたら,いつまでもできない。とにかく,やってみる」と答えています。その後,大リーグでも首位打者2回,最多安打7回,新人時代から10年連続のゴールドグラブ賞等に輝き,名実とも大リーグを代表する選手となりました。そして,引退会見では「後悔などあろうはずがありません。自分なりに頑張ってきたということははっきりと言えるので,これを重ねることでしか,後悔を生まないということはできないと思います。」とコメントしています。まさに,大好きな野球に打ち込み,果敢に挑戦し続けながら,ハンディーを乗り越え夢を実現した姿がそこにありました。
 皆さんも,困難にあっても挫けない勇気・気概を持ち,挑戦し学び続けながら成長を確信できる年にしてください。
 さて,本年度の学校目標は,正面左手に掲げているように「命・恕の心を育む」としました。
 虐待,いじめ,身内への殺人,無差別な殺人等命を蔑ろにしている事件が後を絶ちません。また,身近な家族の突然の死に悲嘆にくれた人もいることでしょう。
 これまでも,機会あるごとに命の大切さについて触れてきましたが,本校のビジョンの一つでもある「命」を目標に掲げました。その尊厳と「生きる」ことの大切さについて考える年にしていきましょう。「恕」という文字は,昨年の目標の「恕し合う心」の恕と同じです。聖書が大切に教えている「ゆるし」の質をさらに向上させてほしいと考え,引き続き,目標としました。これまで積み上げてきた「恕し合う心」すなわち,「相手のことを自分のごとく思う心」,思いやりの心で溢れ,皆が安心して登校できる学校にして,皆さん一人ひとりの花が置かれた場所で大きく咲かせることができるようにしていきたいと強く願い目標といたしました。
 昨年までと違って,「育てる」ではなく「育む」とした意味合いは,「皆さん一人ひとりが,かけがえのない命と他者や友に対して思いやりを大切にしながら,心から愛情を注いで行動できる人になってほしい」との思いを込めています。自分自身で心の成長を感じられる年にしていきましょう。
 聖書のペトロの手紙 第一 三章10-12は,次のように教えています。
 「命を愛し,幸せな日々を過ごしたい人は,舌を制して,悪を言わず,唇を閉じて,偽りを語らず,悪から遠ざかり,善を行い,平和を願って,これを追い求めよ。主の目は正しい者に注がれ,主の耳は彼らの祈りに傾けられる。主の顔は,悪事を働く者に対して向けられる。」
 作者不詳ですが,私が教訓としている詩があります。
 『 その一言で 励まされ  その一言で 夢を持ち  その一言で 腹が立ち
  その一言で がっかりし その一言で 泣かされる  ほんのわずかな一言が 
  不思議に大きな力になる ほんのちょっとの一言で 』
 まさに,ペトロの手紙に通じる詩だと思っています。
 一昨年帰天された日野原重明さんは,「いのちは,自分が持っている時間だよ いのちを大切にするとは,命を上手に使うこと つまり君のもつ時間を君だけでなく誰かのために使うこと」と言われています。
 3月21日に,本校の高校茶道部・マリアパン種クラブの14名が昨年西日本豪雨災害で大きな被害を受けた倉敷市真備町を訪れ,仮設住宅での生活を余儀なくされている方々に少しでも元気になってほしいとの思いで「復興まちづくり応援 お茶会」を行いました。その様子を,地元のケーブルテレビでも取り上げてくださるとともに,現地の人からは「こうしてお茶を頂けることも遠ざかっていたので,本当にありがたい。」等感謝のお言葉をたくさんいただきました。本校の精神でもある「愛と奉仕の心」を体現した素晴らしい活動でした。
 皆さんも,この一年間,命と思いやりの心を育み,一人ひとりが持っている力を存分に発揮して,それぞれの花を大きく咲かせることができる一年にしていきましょう。
 最後に,相田みつをさんの「いのち無常」という詩を紹介し式辞といたします。
 『 いま ここにしかない あなたのいのち わたしのいのち 』
 
二○一九年四月六日
福山暁の星女子中学・高等学校長  小野田文明
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