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校長先生のお話

第65回 卒業式 式辞
2019-02-28
 早春の候、寒さも和らぎ、万物が躍動を始める季節となりました。本日は、田中副理事長、細川学院長、中島小学校長、藤岡保護者会副会長のご臨席を賜り、第六十五回卒業証書授与式が挙行できますこと、深く感謝申し上げます。
 保護者の皆様、お嬢様方のご卒業おめでとうございます。今日まで、お嬢様を本校の教育に託して頂きましたことに深く感謝申し上げます。先程、一人ひとりに卒業証書を授与いたしましたが、これまでお支え頂いた日々の出来事や様々なご苦労等が去来し、本日のお嬢様方の姿に感慨一入のことと存じ上げます。
 優颯の会の皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんの胸中は、かけがえのない友と過ごした高校生活の日々の思いが走馬灯のように駆け巡っていることでしょう。
 予餞会で在校生が歌った「いつかこの涙が」の歌詞の一節に「ああこの涙がこの仲間と過ごしてぶつかり合った日々が勲章に変わる ああこの笑顔がこの仲間と出会って信じあえた日々が勲章に変わる 今は この終わりのない自分の挑戦の先に 眩しい未来が待っているから」とあります。
 まさに、今日は、85人の仲間と涙を流したり笑顔で過ごしたりした思い出一杯の校舎と別れを告げ、新たなる扉を開き、眩しい未来に向かう旅立ちの日です。
 一昨年、帰天したシスター・テレジタ石井も、本校創立七十周年という記念すべき年度の卒業生である皆さんの逞しく成長した姿を空から満面の笑みを浮かべながら祝福していることでしょう。
 皆さんは、桜が咲き誇る四月の入学式で出会った友と、三年間の高校生活で多くの貴重な学習や体験を積み重ねてきました。振り返ってみると、カナダへの修学旅行・運動会・文化祭などの学校行事、そして、本校独自の記念祭バザーや聖母月・クリスマス会・奉仕活動・光の伝達式など多岐にわたる活動を経験してきました。こうした活動を通じて、本校を巣立っていく生徒に望む具体的な姿である「豊かなかかわりを築いていく力」や「奉仕する心と実践する力」等の我が校が目指す「18歳のすがた」を確実に体得してくれました。
 私は、皆さんと過ごした日々は、わずか二年間でしたが、優秀で優しさも兼ね備え、いつも颯爽とした皆さんの優美な姿、とても印象的でした。その姿や活躍ぶりに私自身、いつも勇気づけられ元気をもらってきました。本当にありがとう。皆さんの日々の姿や記念祭バザー・部活動等での活躍ぶりから、「Women for Others」の精神が確実に培われ、本校の歴史と伝統が脈々と受け継がれていることを実感しています。これからは、本校の卒業生として、如何なく力を発揮し将来の日本を支える中枢として活躍してくれることでしょう。
 
 マタイによる福音書5章5節には、「柔和な人々は、幸いである。その人たちは地を受け継ぐ。」とあります。
 また、テサロニケ第四章には、「互いに平和に過ごしなさい。怠けている者たちを戒めなさい。気落ちしている者たちを励ましなさい。弱い者たちを助けなさい。すべての人に対して忍耐強く接しなさい。だれも、悪をもって悪に報いることのないように気をつけなさい。お互いの間でも、すべての人に対して、いつも善を行うよう努めなさい。いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。どんなことにも感謝しなさい。」とあります。
 皆さんは、高校1年で「Together Everyone Achievement More」すなわち「TEAM」を学年目標として、みんなで一緒により多くのことを達成していく力をつけ、高校2年で「サーバントリーダーシップ」を目標に奉仕する心の大切さを学び、高校3年では、「暁の星インテリジェンス」を目標に、優しさと優れた能力を遺憾なく発揮し、本校の知のリーダーとして活躍してくれました。こうした皆さんだからこそ、本校の卒業生として、これからも先程の聖書の教えに基づく行動や生き方をしてくれることでしょう。 
 さて、まもなく、卒業生の皆さんが生まれ育ってきた平成の時代を終えようとしています。この時代を思い返してみると、地下鉄サリン事件やニューヨーク同時多発テロなど全世界を震撼させた事件や阪神淡路大震災・東日本大震災、そして、昨年私たちを襲った西日本豪雨などの自然災害が頻繁に発生し、甚大な被害をもたらし多くの尊い命が失われた時代でもありました。その爪痕は、今なお、私たちの心深く浸透し、忘れてはならない記憶として残されています。平和と人命の尊さを教えられた時代でもありました。
 平成最後の年である本年の二月十二日、皆さんと同学年で、昨年のアジア大会では6個の金メダルを獲得し、2020年東京オリンピックの有力選手として活躍が期待された競泳の池江璃花子選手が、白血病に襲われ入院生活を余儀なくされたという報道が突然飛び込んできました。それ以来、連日のように関連する話題が報じられました。池江選手の「自分に乗り越えられない壁はないと思っています」「さらに強くなった姿を見せられるように頑張っていきます」というコメント、さらには、骨髄バンク登録者の急増に対して、「私だけでなく、同じように辛い思いをしている方々達にも希望を持たせていただいています」等、大変な病魔に侵され、オリンピック出場という夢が断たれかねないような失意のどん底に落とされる事態となっても、前向きに生きようとする強い決意や自分のことで精一杯の状況であっても、他者に対して思いを馳せる姿には、多くの人が称賛と激励の声を挙げています。自暴自棄になりかねない試練や困難を与えられても、現状をしっかり受け止め力強く生きようとするその姿には深い感銘を受けます。皆さんと同世代の池江選手のコメントだけに学ぶべき点は、とても多くあるのではないでしょうか。一日も早い快復と復帰を切望して止みません。
 さて、現在、世界は第四次産業革命の真っただ中にあるといわれ、AIやIoT、ロボットに関連する報道が頻繁になされるようになりました。まさに、加速度的に進展しており、経済社会の有り様を一変させようとしています。そして、我が国は、世界に類のない急速な少子高齢化社会を迎えつつあります。これから訪れるSociety5.0、すなわち超スマート社会の時代で活躍する人の能力の一つは、「ホスピタリティ」だと世界の多くの識者が述べています。ホスピタリティとは、コミュニケーション能力と共に「対人的能力」と言われ、「思いやり」とか「心からのおもてなし」という意味です。
 これまで、何度も紹介してきた宮澤章二さんの「行為の意味」という詩の中に、「あたたかい心が あたたかい行為になり やさしい思いが やさしい行為になるとき 心も思いも 初めて美しく生きる …それは 人が人として生きることだ」とあります。
 本年度の教育目標であった「恕し合う心」の「恕」、すなわち「おもいやり」は、これからの社会では、益々強く求められます。訪れる時代の中で、小さな愛と「おもいやり」を他者に運びながら「あたたかい行為」と「やさしい行為」で溢れる世の中の実現への一助となる生活を送ってください。
 そして、皆さんは、戦後の混乱期に、フランスから四人のシスターたちがこの地に訪れ、日本のことばで何一つ話せない中、自分たちの育った文化と全く違った文化の中、饒舌に尽くし難い幾多の困難を乗り越え一粒の麦を落とし開校した本校の卒業生です。これまで培ってきた愛と奉仕の心や平和を希求する心を持ち続け、人生という荒波を逞しく生き抜いてください。
 最後に、かけがえのない命を大切にし,高校生活を共に過ごしたかけがえのない友との友情を更に育むとともに、これまで惜しみない愛情を注いでくれた家族に、多くの借りをつくっている家族に感謝し、必ず恩返しという形で借りを返してください。
 あなた方の前途が、幸多きことを祈念し式辞といたします。
2019年2月28日
福山暁の星女子高等学校 校長 小野田 文明
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