ウニ卵を用いた食品添加物の影響調査
ウニ卵の発生における亜硝酸ナトリウムの影響について
福山暁の星女子高等学校エコクラブ
はじめに
私たちがロにしている食品の中には食品添加物を含んでいるものが多くあり、その1つに、発色剤として用いられている亜硝駿ナトリウムがある。
亜硝酸ナトリウムは、遺伝子損傷性、変異原性を示し、染色体異常を起こす事が知られている。また、他の食品添加物や魚の肉、魚の卵に多いジメチルアミンと反応し、発ガン物質(ニトロソアミン)も生成する。
亜硝酸ナトリウムは、遺伝子損傷性、変異原性を示し、染色体異常を起こす事が知られている。また、他の食品添加物や魚の肉、魚の卵に多いジメチルアミンと反応し、発ガン物質(ニトロソアミン)も生成する。
ソーセージ等への添加についての使用基準は70ppm(0.007%)と定められている。このような食品添加物の使用基準は一般的に、マウス、ラット等に毎日経口投与することによって器官レベルで異常がないことなどが確認される基準量の100分の1程度として、決められている。
私たちは、個体レベル、器官レベルでは異常が認められない使用基準内の濃度で、亜硝酸ナトリウムが消化管内壁などの細胞レベルで異常を引き起こしている可能性を検討したいと考えた。
私たちは、個体レベル、器官レベルでは異常が認められない使用基準内の濃度で、亜硝酸ナトリウムが消化管内壁などの細胞レベルで異常を引き起こしている可能性を検討したいと考えた。
そこで、2000年4月と2001年4月の2回、バフンウニの受精卵の発生における亜硝酸ナトリウムの影響を調べた。
その結果、2000年、2001年とも、ほぼ同程度の亜硝酸ナトリウム濃度で特徴的な形態の奇形が観察された。
その結果、2000年、2001年とも、ほぼ同程度の亜硝酸ナトリウム濃度で特徴的な形態の奇形が観察された。
今回、受精後52時間で、0.243%、0.081%亜硝酸ナトリウム添加海水中では、100%のウニの胚が奇形となり、0.027%亜硝酸ナトリウム添加海水中では、45%のウニの胚が、0.009%亜硝酸ナトリウム添加海水中で、25%のウニの胚が奇形となった。
2001年の実験では、0.2%亜硝酸ナトリウム添加海水中で、100%の胚が奇形となり,、0.02%亜硝酸ナトリウム添加海水中で、約70%の胚が奇形となった。 今回、2001年のデータを中心に報告する。
●方法
(1)受精と発生
福山市走島で2001年4月1日に採集したバフンウニを使用し、4月2日から4月4日まで実験を行った。
一つがいの雌雄から得られた受精卵を以下の11種顛の溶液(200?)に、ほぼ同量ずつ入れ、エアレーションを行った。 海水は、ウニの採集場(走島)の海水をろ過したものを使用し、約14℃?20℃で行った。 なお、NaNO2,NaClの濃度は天然海水に加えた試薬の濃度(海水希釈後)を意味している。
一つがいの雌雄から得られた受精卵を以下の11種顛の溶液(200?)に、ほぼ同量ずつ入れ、エアレーションを行った。 海水は、ウニの採集場(走島)の海水をろ過したものを使用し、約14℃?20℃で行った。 なお、NaNO2,NaClの濃度は天然海水に加えた試薬の濃度(海水希釈後)を意味している。
A 0.243%NaNO2+海水
A' 0.243%NaCl+海水
B 0.081%NaNO2+海水
B' 0.081%NaCl+海水
C 0.027% NaNO2+海水
C' 0.027%NaCl+海水
D 0.009%NaNO2+海水
D' 0.009%NaCl+海水
E 0.003%NaNO2+海水
E' 0.003%NaCl+海水
F 海水
A' 0.243%NaCl+海水
B 0.081%NaNO2+海水
B' 0.081%NaCl+海水
C 0.027% NaNO2+海水
C' 0.027%NaCl+海水
D 0.009%NaNO2+海水
D' 0.009%NaCl+海水
E 0.003%NaNO2+海水
E' 0.003%NaCl+海水
F 海水
(2)測定
夜間を除いて2時間おきに、ビーカー内の胚浮遊液をピペットで均一に撹拌した後、 プレパラートを作成し、顕微鏡で20個体について、胚の発生段階と奇形数を調べた。
●結果
実験A(0.243% NaNO2)では、受精後44時間以降、90?100%が奇形になり(表1,図1)、同じ濃度のNaClを添加した実験A'(奇形率0?20%)と比較して有意差が認められた(P<0.05 表2 Fisherの正確確率検定法 )
実験Aの奇形は、受精膜が破れず、陥入も起こらず、細胞が受精膜の中で、無秩序に増えているのが特徴であった(図2-a)。また、正常な原腸胚やプリズム幼生になるものは、まったくなかった(表3)。
実験B(0.081%NaNO2)では、受精後44時間以降、90?100%が奇形になり(表1,図1)、同じ濃度のNaClを添加した実験B'(奇形率0?10%)と比較して有意差が認められた(P<0.05 表2)。
実験C(0.027%NaNO2)では、受精後50時間から奇形率が上昇し、52時間で、45%となり(表1,図1)、52時間で、同じ濃度のNaClを添加した実験C'と比較して有意差が認められた(P<0.05 表2)。
実験Cの奇形の形態は、実験Bと同様で、原腸が外に飛び出るタイプであった(図2-b)。
実験D(0.009%NaNO2)では、受精後50時間から奇形率が上昇し(表1,図1),52時間で25%となり、52時間で、NaClを用いた実験D'と比較してP=0.09で0.05以内では有意差が認められなかったが、0.1以内であった(表2)。
実験Dの奇形も、実験B,Cと同様で、原腸が外に飛び出るタイプであった(図2-b)。このようなタイプの奇形は、NaClを添加した対照実験では、ほとんど見られなかった。このことを考慮すると、統計的に有意とは言えないにしても、亜硝酸ナトリウムの影響があったと言えよう。
実験E(0.003%NaNO2)では、受精後52時間までは、対照実験と比較して奇形率に差は認められなかった(表1,図1)。
これらの実験を通して、いくつかのことがわかった。一つは、海水中の亜硝酸ナトリウムの濃度が高いほど、ウニの胚の奇形率が発生の初期段階から高くなるということである(表1,図1、表3)。二つめは、奇形の形態が、海水中の亜硝酸ナトリウムの濃度によって異なるということである(図2)。
これらの点については2000年4月に行った実験でも、同様の傾向が確認された。
●考察
亜硝酸ナトリウムのソーセージ等への添加についての使用基準は70ppm(0.007%)と定められている。
今回、受精後52時間で、0.243%、0.081%亜硝酸ナトリウム濃度では、100%のウニの胚が奇形となり、0.027%亜硝酸ナトリウム濃度では、45%のウニの胚が奇形となり、0.009%亜硝酸ナトリウム濃度で、25%のウニの胚が奇形となった。しかも、これら奇形には、NaClを添加した場合の対照実験ではほとんど見られない特有の形態的特徴があった。この実験の数日後行った、0.2%KClを海水に添加した別の対照実験では、ほぼ正常なプルテウス幼生に成長した。
亜硝酸ナトリウムの濃度が薄いほど、奇形が発生する時期が遅れる。Dグループ(0.009%亜硝酸ナトリウム)については、プルテウス幼生になるころ奇形が発生し始め、52時間後ではまだ半数以上がプルテウス幼生になっていない状況なので、さらに観察を続けていけば、奇形率が上昇することも考えられる。
このような結果から、食品への添加が認められている0.007%の亜硝酸ナトリウム添加のソーセージを連日食べ続け、0.007%程度の亜硝酸ナトリウムに腸内壁がさらされ続けた場合、細胞レベルで異常が起きる可能性がまったくないとはいえないだろう。しかし、海水に囲まれたウニの胚が亜硝酸ナトリウムによって受ける影響は、体内の組織液にも囲まれている腸内壁の細胞が食物中の亜硝酸ナトリウムから受ける影響に比べて大きいかもしれない。
いずれにしても、食品添加物の変異原性等を調べるための簡便なスクリーニングの方法としてこの実験系を提案したい。2001年4月に、他の食品添加物であるソルビン酸カリウムやサッカリンでも実験を行ったが、どの場合でも、食品に添加する場合の安全基準とほぼ同程度の濃度の海水中濃度で、奇形が発生する点で一致が見られた。最終的な安全性は哺乳類を用いた動物実験で確かめるとしても、この実験系でスクリーニングや予備実験を行ったうえで実験を行えば、実験動物を減らせる可能性がある。 ウニ卵を用いた理由としては、発生学ではよく知られた動物で発生異常が見つけやすく、受精のタイミングのコントロールが容易であること、細胞分裂と分化が盛んなため、変異原性や催奇形性が現われやすく、また、短時間に多くのデータが得られるからである。
また、この実験系で、食品添加物の変異原性を打ち消す物質を調べることもできるだろう。野沢菜などの自然食品には亜硝酸が多く含まれているが、これらの食品中の他の物質が亜硝酸の変異原性を打ち消していることも十分考えられる。そうした物質が同定できれば、亜硝酸の入った食品と食べあわせることで有害性を除去できるかもしれない。
過去の学術論文について文献検索を行ったところ、ウニ卵を医薬品の有害性のスクリーニングや水質汚染のバイオアッセイに用いた実験はあったが、亜硝酸ナトリウム等の食品添加物の有害性について用いた論文は見つからなかった。
また、この実験系は、高価な機器を用いずに実験ができるので、中学、高校での環境学習の一つとしても適しているだろう。
この研究については、広島大学生物生産学科の加藤範久先生に、文献収集を始め、さま ざまなアドバイスをいただいたことを、この場をお借りし、深く感謝したいと思います。 有り難うございました。
●参考文献
TERI A,K.,JEFFREY,B.,ROBERT,S.,DAVID,B.(1988).Screeninng for the developmental
toxicity of retinoids:Use of the Sea Urchin Model. Fundamental and Applied
Toxicology.11,511-518
LUCIANO,V.(1992).Toxicology of nitrates and nitrites.Food Additives and
Contaminants.vol 9.No.5 pp.579-585
大西孝司:食品添加物Morpholine(脂肪酸)の突然変異原性に関する研究、日衛誌、39、
1984.730-748
TERI A,K.,JEFFREY,B.,ROBERT,S.,DAVID,B.(1988).Screeninng for the developmental
toxicity of retinoids:Use of the Sea Urchin Model. Fundamental and Applied
Toxicology.11,511-518
LUCIANO,V.(1992).Toxicology of nitrates and nitrites.Food Additives and
Contaminants.vol 9.No.5 pp.579-585
大西孝司:食品添加物Morpholine(脂肪酸)の突然変異原性に関する研究、日衛誌、39、
1984.730-748
表1 寄生率の比較(%) (20胚中の寄生率)
測定
| 第1回
| 第2回
| 第3回 | 第4回
| 第5回 | 第6回
|
受精後経過時間
| 2
| 4
| 20
| 22
| 24
| 26
|
A 0.243%NaNO2
| 5
| 5
| 5
| 0
| 0
| 0
|
A’ 0.243%NaCl
| 5
| 0
| 10
| 15
| 10
| 15
|
B 0.081%NaNO2
| 5
| 0
| 5
| 10
| 0
| 0
|
B’ 0.081%NaCl
| 10
| 0
| 10
| 0
| 0
| 5
|
C 0.027%NaNO2
| 0
| 0
| 0
| 0
| 0
| 5
|
C’ 0.027%NaCl
| 0
| 0
| 0
| 0
| 0
| 0
|
D 0.009%NaNO2
| 0
| 10
| 0
| 10
| 0
| 0
|
D’ 0.009%NaCl
| 0
| 0
| 10
| 0
| 0
| 0
|
E 0.003%NaNO2
| 0
| 0
| 0
| 0
| 0
| 0
|
E’ 0.003%NaCl
| 10
| 0
| 0
| 5
| 0
| 0
|
F 海水
| 0
| 0
| 10
| 10
| 10
| 10
|
測定
| 第7回
| 第8回
| 第9回
| 第10回
| 第11回
| 第12回
|
受精後経過時間
| 28
| 44
| 46
| 48
| 50
| 52
|
A 0.243%NaNO2
| 10
| 90
| 85
| 100
| 100
| 100
|
A’ 0.243%NaCl
| 15
| 15
| 0
| 20
| 5
| 20
|
B 0.081%NaNO2
| 5
| 100
| 100
| 100
| 95
| 100
|
B’ 0.081%NaCl
| 0
| 5
| 0
| 5
| 0
| 0
|
C 0.027%NaNO2
| 0
| 10
| 25
| 25
| 45
| 45
|
C’ 0.027%NaCl
| 5
| 0
| 10
| 5
| 20
| 10
|
D 0.009%NaNO2
| 5
| 10
| 5
| 0
| 20
| 25
|
D’ 0.009%NaCl
| 5
| 5
| 10
| 5
| 5
| 5
|
E 0.003%NaNO2
| 5
| 10
| 15
| 5
| 0
| 5
|
E’ 0.003%NaCl
| 0
| 0
| 10
| 5
| 5
| 10
|
F 海水
| 5
| 15
| 5
| 0
| 10
| 10
|
表2 Fisherの正確確率検定法 *:P<0.05
測定
| 第8回
| 第9回
| 第10回
| 第11回
| 第12回
|
受精後経過時間
| 44
| 46
| 48
| 50
| 52
|
A 0.243%NaNO2
| 0.0000001679
| 0.00000000129
| 0.00000000015
| 0.00000000015
| 0.00000000015
|
A’ 0.243%NaCl
| *
| *
| *
| *
| *
|
B 0.081%NaNO2
| 0.00000000015
| 0.00000000001
| 0.00000000015
| 0.00000000015
| 0.00000000015
|
B’ 0.081%NaCl
| *
| *
| *
| *
| *
|
C 0.027%NaNO2
| 0.08078408078
| 0.06762662074
| 0.01547515257
| ||
C’ 0.027%NaCl
| *
| ||||
D 0.009%NaNO2
| 0.09088209088
| ||||
D’ 0.009%NaCl
| |||||
E 0.003%NaNO2
| |||||
E’ 0.003%NaCl
|
表3 発生の進行状況 (各時間で最も多かった段階を示す)
測定
| 第1回
| 第2回
| 第3回 | 第4回
| 第5回 | 第6回
|
受精後経過時間
| 2
| 4
| 20
| 22
| 24
| 26
|
A 0.243%NaNO2
| 2細胞期
| 8細胞
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
|
A’ 0.243%NaCl
| 2細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
|
B 0.081%NaNO2
| 2細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
|
B’ 0.081%NaCl
| 2細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
| 原腸胚
|
C 0.027%NaNO2
| 4細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
| 原腸胚
|
C’ 0.027%NaCl
| 4細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
| 原腸胚
|
D 0.009%NaNO2
| 4細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
| 原腸胚
|
D’ 0.009%NaCl
| 4細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
| 原腸胚
|
E 0.003%NaNO2
| 4細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 胞胚
| 原腸胚
|
E’ 0.003%NaCl
| 2細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 原腸胚
| 原腸胚
|
F 海水
| 2細胞期
| 16細胞~桑実胚
| 胞胚
| 胞胚
| 原腸胚
| 原腸胚
|
測定
| 第7回
| 第8回
| 第9回
| 第10回
| 第11回
| 第12回
|
受精後経過時間
| 28
| 44
| 46
| 48
| 50
| 52
|
A 0.243%NaNO2
| 胞胚
| |||||
A’ 0.243%NaCl
| 原腸胚
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プルテウス
| プルテウス
|
B 0.081%NaNO2
| 胞胚
| |||||
B’ 0.081%NaCl
| 原腸胚
| プリズム
| プリズム
| プルテウス
| プルテウス
| プルテウス
|
C 0.027%NaNO2
| 原腸胚
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| ||
C’ 0.027%NaCl
| 原腸胚
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
|
D 0.009%NaNO2
| 原腸胚
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
|
D’ 0.009%NaCl
| 原腸胚
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プルテウス
|
E 0.003%NaNO2
| 原腸胚
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
|
E’ 0.003%NaCl
| 原腸胚
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
|
F 海水
| 原腸胚
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
| プリズム
|
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